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Channel: コーヒーを挽きながら~岸本静江のひとり言~
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日本国宝展・鈴木航伊知展

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 暦通り冷たい雨の降りしきる霜降(そうこう)の日、東京国立博物館平成館の「日本国宝展」に出かけた。晴天ならばこんな大展覧会、大変な雑踏、と踏んだからだが思惑成功!
     
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 以前本館で開催された時は満員電車並みの混雑。「源氏物語絵巻」などは後ろから押され隔てのガラス板に手をついて体を支えなければならなかった。今回は展示作品数も少なく、この悪天候、それでも、熱心な愛好家で巻物の前は一杯。日本人はホント美術が好きなんだぁ。
 
 今回の目玉(全部が目玉だけど)は特別出品の正倉院御物5点。鳥毛立女(とりげりつじょ)屏風2点(第1、第3扇)、紅牙撥鏤撥(こうがばちるのばち)、緑地彩絵箱(みどりじさいえのはこ)、それに楓蘇芳染螺鈿槽琵琶(かえですおうぞめらでんのそうのびわ)。どれもこれも世界的超一級品。特に鳥毛立女像は鳥毛が剥落してもその下絵の白描が素晴らしいし、なにより天平美人の下膨れの豊満な顔、恥じらいを含んだ紅色の頬の見事さ。唐の様式ながら日本産ヤマドリの毛を用いているなど、れっきとした和製品。琵琶も楓材で和製の証。天平の美の粋だ。イメージ 11
 
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  それに法隆寺からは玉虫厨子と広目天立像。厨子の8面に描かれた蜜陀絵は荘厳。中でも「捨身飼虎」(しゃしんしこ)図はやはり見事。おしゃかさまが前世で飢えた虎の母子に自分の体を与えた、という故事。広目天立像。すましたお顔の広目天に踏みつけられた情けない顔の鬼がユーモラス。同室の興福寺蔵「多聞天立像」も鬼を踏みつけているので両者を比べると興味深い。
 
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      (玉虫厨子)
 
                                                             
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 それよりぐ~んと時代を遡った縄文時代からの出土品も見もの。藤ノ木古墳から発掘された金銅製鞍金具、鏡、銅鐸… 中でも長野県茅野市棚畑遺跡出土の土偶「縄文のビーナス」は圧巻。下半身のボリューム、特に重く垂れ下がったお尻のカーブはまさに豊満な日本女性のお尻。         
イメージ 7(縄文のビーナス)
 
 絵巻物。寝覚物語、地獄草紙、当麻曼荼羅縁起(たいままんだらえんぎ)、そして源氏物語「柏木巻」。こんなにも豊かな想像力の世界があったんだ!
 
 書の世界も凄い。絵巻物と対になっていたり、下地装飾絵の上に書かれているのが多いので、どちらのジャンルにも入るのだが、日本書紀の端正な文字! 中国人来場者だろうか、中国語読みの声が聞こえる。やっぱり漢字は東洋共通の文字だ。「御撰和歌集」、藤原定家の当時悪筆と言われた(?)独特の文字。歌聖の遺したもう一つの藝術だ。
 
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日本の大航海時代のシンボル、慶長遣欧使節、支倉常長の肖像画も。ヨーロッパで描かれた油彩の実物はやはり厚みを感じ、同時展示の銀の十字架と共に彼の苦難の生涯を思わせる。
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                                             彫刻部門の国宝指定では最も新しい(去年平成25年指定)快慶作の善財童子立像。渡海する文殊菩薩を先導しながらもそのお姿を拝むため振り向いた動的な瞬間を見事に捉えた立像。童子の顔もかわいらしく、どこか興福寺の阿修羅像を思わせる。(図1参照)
 
 桃山時代の巨匠狩野永徳と長谷川等伯の障壁画が並んで展示されているのも学芸員の妙技。しかも絢爛豪華な狩野派絵の永徳がここでは水墨の「花鳥図」、「松林図」の静謐な水墨画で知られる等伯が極彩色の「松に秋草図」。400年後も二人のライバル対決は続いている?
     
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               (長谷川等伯 松に秋草図)
 
 工芸品。志野茶碗の銘「卯の花垣」、玳玻天目茶碗(たいひてんもくちゃわん)、大井戸茶碗、銘喜左衛門、飛青磁花生。沖縄の紅型染衣装。明るく大胆な色彩と模様はいかにも南国沖縄生まれ。 
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(←大井戸茶碗
 銘 喜左衛門)
 
 
 
 
 
 
 
 
 ふ~ッ! この圧倒的な宝物のエネルギーを前に半日では到底見きれない。また改めて出直そう。それに今回出展されていない「漢委奴国王」の金印、雪舟の「秋冬山水図」など他のお宝が後期には出品されるというし…
 
 京橋へ足を伸ばして「鈴木航伊知油彩画個展」へ。鈴木さんとは数年前にご著書「中世の旅人ヤン」を頂いて知り合った。中世ヨーロッパ世界を旅しつつ成長してゆく少年ヤンを描いた傑作(2007816日当ブログでも紹介した)だが、その後すっかりご無沙汰していた。今回個展と伺い早速会場の並木画廊で久闊を叙す。
 
 青年期から絵を描きたい、ヨーロッパへ行きたいと憧れていた鈴木氏、定年退職と同時に長年の夢をかなえるべく渡欧、在欧6年。その間パリの代表的な公募展サロン・ドートンヌに入選、アルル国際美術展で金賞など、輝かしい実績を挙げた。
 
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 その作品群は鈴木氏の心中にある中世ヨーロッパ世界の具現化。あくまでも明るい色彩は念願かなった喜びを全身で表現している証。見る者にまでその喜びが伝わって来るし、例えばベルギーのゲント、イタリアのヴェネチア、など今なお中世の町の佇まいを色濃く残す町々の光景を彷彿とさせる。
 
 規模こそ違え、2つの展覧会は、かたや日本や東洋の古代の人々との対話を、かたや空想上のヨーロッパ中世の人々や町との対話を、楽しませ、堪能させてくれた。
 
 
 

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